~拉致処分に踏み切った日本政府の圧力~

 


2月17日、拉致被害者家族会、救う会の連名で北朝鮮へ向けたメッセージが発表されました。


救う会 全国協議会

「全拉致被害者の即時一括帰国を決断していただきたい」

http://www.sukuukai.jp/report/20190217/20190217_00.html


気になった文言を挙げていくと、


①全拉致被害者の即時一括帰国

拉致被害者の帰国以外何も求めていない

③日本との首脳会談が実現しなかったことは残念

④安倍首相は「…相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、…北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指します。」と施政方針演説で述べた。

⑤帰ってきた拉致被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意志はない

(強調して)家族会は拉致被害者と静かな日常生活を送ることを切望、救う会もその実現を日本政府に求めるだけ。

金正恩委員長に訴えている

 

パッと読んだ印象で、今までのような北朝鮮と戦うといった雰囲気ではなく、疲れと懇願に満ちた文章が北朝鮮の指導者に向けられています。平たく言って降参。被害者家族のすべてが同意しているとは言いませんが、文章としては、完全に気力と判断力が失われています。ソースは拾いきれなかったのですが、「生死を問わないので知りたい」という言葉に、震災での行方不明者家族と姿が重なりました。

 

さて、先に挙げた気になった点を一つ一つ考察します。

 

①全拉致被害者の即時一括帰国

安倍総理が過去に発言している通り、日本政府は拉致被害者のすべてを把握してはおりません。かなりの数を把握してはいるものの、中途半端に公開して取り戻せなかった時のリスクを考えた結果からか、安倍政権としては特定失踪者については言及しておりません。ゆえに「全拉致被害者」とは認定拉致被害者を指し、特定失踪者を含んでおりません。「家族会という日朝国交正常化の阻害要因」を優先的に丸め込んだ結果、「認定拉致被害者」と「特定失踪者」の分断が(結果的に)起きてしまいました。まずここで特定失踪者が処分されたということです。

 

拉致被害者の帰国以外何も求めていない

①と関連するのですが、2002年に日朝平壌宣言を結んだにも関わらず、国交正常化できなかった原因は、認定拉致被害者家族の抗議があり、それを受けた国民の反対があったからです。「帰国以外何も求めていない=国交正常化の妨げとなるようなことはしない」という誓約だと思いました。

 

③日本との首脳会談が実現しなかったことは残念

この文言が入ったことは、首脳会談で拉致問題が進展することを期待した被害者家族の気持ちもあるでしょうが、イマイチ正直な表現に受け取れませんでした。

 

④安倍首相は「…相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、…北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指します。」と施政方針演説で述べた。

③と関連するのですが、北朝鮮が日本に期待する援助を持ち出しても、北朝鮮は首脳会談には乗ってきませんでした。これは北朝鮮安倍総理を信用していないからです。そのため北朝鮮は日朝二国間の協議においてではなく、米国経由の圧力で経済援助を引き出すことにしました。

北朝鮮に従米を見抜かれた安倍総理


…この辺で、家族会の気持ちとは言い難い、③でも感じた違和感が強くなりました。政府に言わされたんだろう、と。日本政府の方針まで記載するというまどろっこしさが、余計にそう感じました。
 

⑤帰ってきた拉致被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意志はない

家族が帰ってきても他の拉致被害者情報を聞いたりしない、他の拉致被害者救出に使わない、他の拉致被害者が救出されていないからといって国交正常化に反対したりしない、という誓約だと思いました。これ自体も誓約なのですが、深読みすれば、先に帰国した拉致被害者に対するけん制も兼ねていると感じました。「帰国する・帰国した拉致被害者に、余計な(政治的な)手出しはさせません」という誓約。

 

(強調して)家族会は拉致被害者と静かな日常生活を送ることを切望、救う会もその実現を日本政府に求めるだけ。

⑤を強調して、「2002年の時の様に国交正常化の妨げになるようなことは致しませんから、どうか家族を帰してください」という懇願。

 

金正恩委員長に訴えている

北朝鮮は金政権による独裁国家ですので、形式上、一番偉いのは金正恩です。その金正恩を立てた表現であることは本件目的においては必要なのでしょう。しかし実際には金正恩が一番偉いとはいえない、とは考えておいて欲しいです。一番偉いのであれば反対勢力もいないし、おびただしい粛清もありません。一番強い支持勢力の神輿ともいえます。カリスマ性を集中させて、国内に対しても、国外に対しても、交渉力を持たせるというのは一つの手法です。話を戻しますが、金正恩の一存で全てを決められるわけではありません。

 

いずれ家族会が抑え込まれる結果になる、とは思ってはいたので想定していたほどのショックではありませんでした。背景が気になるところです。

 

…これか。


拉致解決へ連帯確認=日米首脳が電話会談

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190220-00000148-jij-pol

 

「首相は拉致被害者の家族と19日に面会したことを説明し、拉致問題での日本の立場を北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長に直接伝えるよう要請した。」

 

要するに17日の家族会・救う会の発表は、安倍政権による、

「家族会を抑え込みましたよ」

「今度は本当に国交正常化もやりますよ」

「いや、今度は本当だから!だって見たでしょ17日の家族会の発表を!?あれ私の成果ですよ!褒めてよ!よくやったでしょ?」

Trust me!」

Try me~私を信じて~」

「未来志向の日朝のドアを開く勇気 届けたい 誰より 熱く…」

 

…という、金委員長へのメッセージでもあったのです。「もう裏切ったりしないから、とにかく会ってよ!」というメッセージ。それにしても北朝鮮はすごいですね、会ってやるだけで拉致問題で勝利し、国交正常化を促し、経済支援を手に入れるのですから。

 

最後に、安倍政権から家族会へどんな圧力があったのか、勝手な想像です。


政府関係者「北朝鮮が日朝会談に応じないのは、家族会の頑なな姿勢にあるからだ。北朝鮮2002年、家族会に邪魔されたせいで国交正常化が進まなくなってしまったと思っている。だから日朝会談を拒んでいる。でもご家族としてはそれで良いのですか?まずは両首脳が会わないと拉致問題も話が進まないのですよ?拉致問題の解決と、国交正常化を阻むこと、どちらが家族会の目的ですか?よく考えてください。これ以上外交の妨げとなると、日本政府としても家族会を支援することは難しくなってしまいます」